■ はじめに:バレエと感情表現の深い関係
バレエは、精度、コントロール、フォームに重点を置いた技術的なダンス形式と思われがちですが、「感情」がバレエのパフォーマンスに魅力を与えるほど重要な要素です。バレエは、物語を言葉を使わないストーリーテリングの形で表現します。ダンサーは、それらに登場するキャラクターの背景にあるもの、性格、気持ちを理解し、体で表現します。ダンサーが喜び、嘆き、怒りなど「感情」を表現することによって、ダンサーは観客とより深くつながることができ、見ている人にとって、作品への没入感を味わうことが出来ます。■バレエにおける感情表現の基本
身体の動きで感情を伝える
○バレエの振り付けと身体の使い方(腕の動き、姿勢、目線など)がどのように感情を表現するか
ステップ以外にも、頭のもたげ方や視線の方向、腕の使い方で感情を表すことができます。例えば、腕をスイープさせて「喜び」を表現させたり、顎を上げてプライドがあることを伝えたりすることもあります。
○無言で伝える感情の表現方法(舞台での顔の表情や身のこなしの重要性)
ボディーランゲージは、バレエで感情を伝える重要な要素の1つです。ダンサーは体を使って、伝えようとしている感情を反映する動きやジェスチャーを使います。また、場面によって表情をつけることも重要です。発表会に慣れていない方やまだ始めたての方に多いのが、楽しいはずなのに、振りのことに集中してしまって、無表情になってしまうこと。そういった場面の時は適していると思いますが、「嬉しい」、「悲しい」、「怒る」、「不思議」など様々な感情を表情に表すことで、見ている人にどんな場面かをより分かりやすく伝えることが出来ます。
バレエの動きと感情のリンク
○ジャンプや回転などがどのように喜びや興奮を表現するか
例えば、ランベルセというステップ。
大きいポーズで脚を高く上げて行なうと「喜び」、小さいポーズで脚を低くしたまま行なうことで、「悲哀」を表現しているとなります。
○グラン・ジュッテやアラベスクが感情をどのように強調するか
グラン・ジュッテという大きな跳躍とアラベスクというポーズは、美しさとダンサーの大胆に身体を使っているかを感じさせます。どちらも繊細さと力強さが必要な技で、感情表現に相まって、より観客を惹きつけます。
■バレエの代表的な作品における感情表現
『白鳥の湖』
○オデットの悲しみや儚さをどう表現するか
オデットの悲しみや儚さは、アームは腕をたらし、足は地面にそっと置く、身体を少し傾けるなど、繊細な表現を心がけます。また、遠くを寂しげに見つめ、愛する人を探すような切ない、悲しみに満ちた儚い表現を意識します。
○ジークフリードの葛藤や後悔の感情をどのように動きで表現するか
彼の葛藤や後悔のシーンでは、肩が落ちて腕が下げ、身体をそらせながら動くことが効果的です。また、目線を伏せるなど視線の方向にも意識を向けると、更に感情を表現できます。ジャンプやステップは、短くしたり、ゆっくり進めたりすると葛藤を表すことが出来ます。静止のポーズを使うことで、感情が興奮した後とのギャップができて、感情が強調されます。
『ロミオとジュリエット』
○恋愛と衝突をどう踊りで表現するか
恋愛は、ペアで踊りますので、相手を包み込んだり、絡んだりするダンスが特徴的です。また、男性ダンサーが女性ダンサーを持ち上げる踊りも多いです。表情は相手しか見えていないうっとりとした表情が魅力的です。
衝突は、相手とにらみ合う静かな時と、小物を利用して、ステップやターンで激しさを表現します。
○激しい感情のぶつかり合いや、静かな愛情をダンスで伝える方法
激しい感情のぶつかり合いでは、ジャンプやステップが激しいものとゆっくりとした動きで緩急をつけると感情が伝わりやすいのではないでしょうか。また、表情もくっと顎を上げて、厳しい表情にすると更に感情も伝わるでしょう。特に激しい決闘のシーンがわかりやすいと思いますので、動画を見てみてください。
静かな愛情は、優雅でゆったりとした、相手を包み込みようなステップを選ぶといいでしょう。
『眠れる森の美女』
○呪いをかけられたオーロラ姫の運命をどのように表現するか
呪いをかけられたオーロラ姫を表現するには、身体の硬直、緊張、恐怖や絶望の表情の動きがポイントになります。
呪いをかけられる前は、慌てて動き回るなど、感情の揺れ動きを表現します。
身体の硬直では、まるで彫刻のように、直線的な姿勢で、ステップは避け、動きを極力抑えます。この時、首や肩をリラックスさせて、身体の力は抜けた状態を表しましょう。足も自然に地面につけてください。
表情は、眠りにつく前は、恐怖や絶望、悲しみなど様々な感情を表現しましょう。だんだんと意識が遠のく様子は、遠い世界を見つめているような表情にしてみましょう。眠りについた後は、無表情で、石造のように静かにたたずみます。
ダンサー個人によって、動き方表情のつけ方はそれぞれですが、このようにしてオーロラ姫は表現されています。
■ 感情表現のテクニック:バレエダンサーが使う方法
目線や視線の使い方
ダンサーがどのように目線を使って感情を伝えるか(観客とのアイコンタクトや視線の方向)
「目は口ほどのものをいう」と言いますよね。バレエでも同じです。目は観客を惹きつける鍵です。観客とのアイコンタクトは、観客の視線を誘導する効果もあります。
顔の表情
○顔の表情を使って悲しみ、喜び、怒りなどの感情をどう表現するか
【喜び】:目を開き、口を穏やかに笑わせる
【悲しみ】:目を柔らかくし、口元をわずかに下げる
眉を悲しげにしかめる
【怒り】:眉を強くしかめ、唇を結ぶ、目を細める
【恐怖・不安】:目を見開き、眉を上げ、唇をきつく結ぶか震わせる
【愛】:目を柔らかくし、わずかに微笑み、優しい視線を送る
鏡の前でぜひ練習してみてください!
呼吸と動きの関係
○息の使い方が感情にどのように影響するか(怒りの際の速い呼吸や悲しみの際の深い呼吸)
呼吸とダンスって何が関係あるんだろうと思う方もいらっしゃると思います。分かりやすい例として、自身が怒っている、悲しい際を思い出してみて下さい。怒りの時、怒りの感情に支配されて、呼吸が浅くなっていませんか?悲しくて泣いてしまう時は、深い息を吸っていませんか?
このように、自然な呼吸を取り入れることで、より演技にリアリティが生まれます。呼吸と動きは密接に関係しているのです。
■感情を込めた練習法とアドバイス
感情の表現を深めるための練習方法
○ダンサーが感情表現を学ぶための練習法(感情に合わせた振り付けの練習や即興のワークショップ)
基礎的なテクニックを磨くことはもちろんのことです。良好な姿勢や正しい動きは、感情を効果的に伝えるための土台となります。
簡単な振り付けから、イメージトレーニングを行い、特定の感情を描きながら練習してみてください。例えば、「喜び」を表現したい場合、自身が体験したことを思い出し、その時感じた「喜び」を基に、身体を動かしてみましょう。より深みのある表現が生まれることでしょう。また、パートナーやグループでのレッスンで、他のダンサーと踊ることで、新しい視点やテクニックを学ぶことができます。また、パートナリングや即興練習を行うことも、お互いの動きを感じ、個々のスタイルを磨くことができます。
○音楽と連動した感情の表現方法を練習する重要性
バレエは音と身体で、物語を表現するダンスです。音楽に合わせて感情を伝える練習をすることで、リズムやメロディに合わせた感情の変化を身体で感じることができ、舞台表現も豊かになります。音楽に合わせた動きや表情は、観客に感情的な共感を起こし、より一体感を感じさせることが出来ます。ですので、音楽に合わせて練習することは、感情を引き立たせるために重要なのです。
感情表現を深めるためのマインドセット
○ダンサーがどのように自分の内面と向き合い、感情を踊りに込めるか
バレエの練習やパフォーマンスをする上で、プレッシャーや不安はつきものです。しかし、その状態を続けてしまうと、ストレスが溜まってしまい、心の余裕がなくなってしまいます。リラクゼーションや瞑想をすることで、ストレス発散をし、自分の感情と向き合いましょう。自分に合った方法を見つけ、バランスのとれた心の状態を保つことが大切です。また、自己肯定感を高めることも重要です。自分の成長や努力を認め、成功も失敗も受け入れることがメンタルヘルスの土台になります。その経験を物語のキャラクターと共感する場面場面に合わせて、踊ってみてください。
■まとめ:感情表現の重要性とバレエの魅力
感情表現は、バレエにとって、物語を魅力的にさせるもの、踊り手と観客が一体になるための重要な要素でした。感情を表現することはなかなか難しいと思いますが、バレエは言葉を使わずに、音と身体で作品を伝えるダンスになります。そして作品にはキャラクターが必ず存在します。彼・彼女らの感情がなければ、それが伝わらなければ物語は成立しません。日常から五感を意識すること、受け取った五感を実践で活かしてみること、作品を理解することを、少しずつ練習に取り入れてみてください。感情表現は、自身のバレエに更に魅力を与え、よりバレエが好きになることでしょう。